2011年1月4日火曜日

きらきら


高3の夏前だった。たぶん法事か何かだったのだろう、あまり行かない親戚へ行くことになった。
両親は車で先に行っていたのでバイクで向かった。着いてみると、他にも親戚がいた。
とりあえず中に入って挨拶だけした。「あれ~○○ちゃん大きくなって~。」とか言われる。
ふと居間の方を見るといつものおばちゃん達の中に見たことないお姉さんがいた。二十歳程か、もう少し上だろうか。
ちらりと顔を見た。色白でそして可愛かった。ちょっとドキッとした。
多分向こうの親戚方の姪御さんなのだろう町の雰囲気、そして私の親族と全く違うDNA。
居場所の無い私はそのうち中から出て外でバイクの脇でうろうろしていた。
開け放された昔からの座敷に縁側から流れこむ海風。
砂浜に打ち寄せ戻る波の音と潮の香りも一緒に流れてくる。
時折、昼でも薄暗い家屋の中に黒っぽいの服に混じって華やかなでも上品な服の彼女が手伝っているのが目の隅に見える。
1時間ほどしただろうか暑い日差しの中にいた私は本家の長男にも関わらずその場からエスケープしようと決めエンジンをかけようとした時、
傍らに明るい色服の彼女が立っていた。そこで何を話したのか今では覚えてもいない。
「ねぇ、一度乗ってみたいから、後ろ乗せてくれない。」そんな感じだったのだろう。
心の中では驚きと共に何かの鐘が鳴っていたと思うが、「いいけど、危ないから俺のメットしかないから、これかぶって。」
初めて真近で顔を向い合せるが恥ずかしくて目は見れない、愛くるしいとしか書き様の無い彼女の顎のラインにアゴ紐を通してあげた。
手のひらに彼女のほほがふれる。まるで僕の心にも何かが触れたような気もした。
親戚に何も言わず彼女を乗せ走り出す。親戚の家からの、その長い進入路から3桁の国道を左折した。
しばらく走った、まだ体が硬い感じだった。能登の漁村特有のヤキスギの外壁と漆黒の瓦に照り付ける陽が光って見える。
チラリとバックミラーを見る、私の後ろで私のヘルメットを被った彼女が抱き着いている。
家並みを抜けた後、僕と彼女を乗せたバイクは海沿いを走っていた。
女性を後ろに乗せたのはその時が初めてだったと思う。
何度かバイクを見晴らしの良いところに止めてヘルメットを取る時の彼女のサラサラの髪とこれぞ夏といった弾ける笑顔がキラキラしていた。
少ししてまた走り出す。別に意識してではないが自然と体と体がふれる。どこに当たっても角が取れた柔らかな感覚、なんだか無性に嬉しい。
胸の奥の何かが甘酸っぱいもので浸されていくのがわかる。
ノーヘルで振り返り「ちょっと飛ばすからしっかり掴って」と彼女の目を見て声をかける。
リアス式海岸特有の海に突き出た急カーブをトレースする私も彼女もどんどんバイクと一つになるように曲がるたびにスムーズに駆け抜けていける。
携帯も無い時代。もちろん親戚が騒ぎ出す前に送り届けたと思う。
「ありがと。楽しかった。またね。」そう言って彼女は何事も無かった様にヘルメットを渡して親戚の家に入っていった。
私はエンジンをかけてまた走り出した。さっきまで二人で走っていたその海岸沿いを今度はフルスロットルで駆け抜ける。
吹き込んでくる潮の香りと共にヘルメットの中にまだ彼女の香りが残っている気がした。
今でもその親戚の家に行くと名前も聞かなかった彼女の事を思い出す時がある。
もう結婚していいおばさんになっているだろう。
でも私の心の中では、年を重ねていても今も碧い海の波の様にキラキラしている。

6 件のコメント:

  1. こういう原体験は大きいですね。

    結婚しておばさんになった彼女には会わない方がいいかも・・・・

    この記事は、奥様のお許しが出たのですね。

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  2. 「おばさんになった彼女には会わない方がいいかも・・」

    そげですね~、追憶は常に美しく現実は、、、、。

    家内の許しが出て載せたのではありませんが、
    「ケッ」って感じとの口頭コメントいただきましたので
    自粛方向で歩み寄りになりそうです。

    所で、何かおおきいのか、書いた本人が良くわかってないのですが、、まぁ、いいですか、はは(汗)。

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  3. ご夫婦の仲が良くて、
    絆が堅固だからこそ、
    書くことがおできになる
    のだと思います。

    うちでこの手の記事を公開したら、
    かなりヤバイです、たぶん。

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  4. お優しいコメントありがとうございます。

    主が与えてくれた夫婦という関係が堅固ですよね。
    神の祝福だけが人を富ませ、人の努力はそれに何も加えないので、努力や意欲でなってないことが、ささやかな証でしょうか。

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  5. (*^_^*)りぼんで~す★2011年1月6日 18:14

    あけましておめでとうございますm(__)m
    コメントしようかどうしようか迷ったのですが
    今年の初コメという事で投稿しました★

    とても楽しく電気屋さんの10代を想像してしまいましたが\(^o^)/なんですが・・・いい感じですね(*^^)v

    奥様へのプロポーズもこのキラキラバージョンだったんだろうなーと、オマケの想像もしました(^^)/

    今年もどうぞよろしくお願いいたしますm(__)m

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  6. (*^_^*)りぼんさん
    おめでとうございます。
    コメントしていただきありがとうございます。

    なんですか..(が..で無く)了解しました。
    日本語は細かいですね。私も誤字脱字ありますが今年もよろしくお願いします。

    あまり家内以外の(数少ないのですが、涙)
    実体験の恋バナは、(ちょっと)「フン!」って感じあるので
    いつか家内バージョンで挑戦になるかもしれません。
    これが、家内にはキラキラ無かった感じ?んーちょっと違う感じ?まっ、いつか、、、。

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